風邪を引いた。朝起きたら喉が痛くて身体がぼーっとだるくて、体温を計りたかったけど家に体温計がなかった。とにかく頭痛、吐き気、喉の痛み、関節痛までしてつらかったから病院に行った。
そしたら風邪と偏頭痛の併発だと言われて、色んな種類の薬を処方された。シロップの薬を本当に久しぶりに飲んだ。子どものころ風邪を引いたらボトルのフタをカップにして飲まされてたあれ。
偏頭痛の薬までもらったせいか病院代と薬代全部で5千円くらいかかってしまって、もう次の給料日まで財布に千円くらいしか残ってないんだけど…
ところで最近ちょこちょこサリーとメッセージを送り合うようになり、このあいだも遅くまで色々と話してた。
実はサリーも私と同じように地元に対して否定的な気持ちを持っていたらしい。「地元から出るまでずっと狭い世界にいたから、心のどこかでモヤモヤしててもそれがおかしいって、気付かなかった。
でも専門学校に行って、外の世界に出てみてやっぱりここは本当におかしいと思った。もし違う場所で育ってたらできることも絶対にもっと多かったし、もっと上品に育ってたんじゃないかと思うことがある」「もし子どもができたら絶対ここでは育てたくない。子どもにはもっと色んな選択肢が持てるような場所で育ってほしい。でもそれを周りに言ったら『どこも同じじゃない?』って言われる。全然違う!こんな場所のこと誇りに思うなよ…」とキレていた。
やっぱり私だけがおかしいと思ってたんじゃなかったんだなとあらためて思った。
やっぱり、すごく楽しくやっているように見えても、実際ちゃんと話してみないと分からないことはたくさんある。
『あしながおじさん』でジュディがサリーのことをパリピだと思って一瞬遠ざけてしまう場面があるけど、ちゃんと話をしてみないとその人が思っていることなんてわからない。
サリーは「でもつかさはここがおかしいってことに気付けて、出ようとしてるだけでえらいよ」とほめてくれた。私も思い切って自分の話をすることにした。
「私はフェミニストなのだけど、このあいだのサリーの結婚式のとき夫さんの上司が『綺麗な奥さんをもらって!』ってスピーチしてた。そのとき一瞬サリーが夫さんが手に入れたトロフィーみたいに扱われてたの、いやだった」って正直に話した。
そしたら「わかる。男の人って女のこと時計みたいにいうよね?いい時計してますね~みたいな」と返ってきて、「それな!」って共感しまくったのだった。
やっぱり完璧な選ばれし人間だけがフェミニストを名乗る資格があるんじゃない。おかしいなと思うことに明確な名前がついてないだけで、みんなどこかで違和感を持って暮らしてるんだと思った。
サリーは「女性らしい」生き方とか話し方とか、女は家庭に入って男性を立てる、とかそういうのが絶対に嫌だったから今の人と結婚した、と言っていた。あと親戚の集まりで夫方のおじいさんに「女は30までに子供を産まないと」「酒が飲めないなんて付き合いが悪い」と言われてブチギレして帰った話も最高だった。場面によっては大人しいように見えても、サリーは最高にロックな子なのだ。
それに私たちはこの地域で育って、親を通して嫌なところをたくさん見たけれど、そこからもいつのまにか学んでいるんだと思った。
そんな話をするうちになんでいま私がこんなに貧乏で病んだ状況にあるのか、東京にいるのかを話した。この状況に対してすごく怒ってくれたし、心配もしてくれた。
最終的に「やっぱり自分で稼いだお金が一番間違いないよね」という結論になり、サリーも「男の人のお金は信用してない!下心があるから」と言っていた。そして生まれた環境は選べないけど、これからの人生は自分で選ぶことができるから生きたいように生きよう、とも。
私が癒しを求めて大きい池のある公園に何日も連続で通って、そこで夜震えながらベンチで文章を書いてる話をすると、「つかさは文章とか書くからなんか景色が綺麗な、癒しのものが見えるところに住むのがよさそう。琵琶湖とか池の近くとか」と言ってくれた。
本当にその通りで、私は琵琶湖が大好きで、池とか並木道とか、少し自然を感じられる場所が大好きだ。ちなみに海やガチの大自然はそんなに好きじゃない。広大すぎて恐ろしい。私が育った場所はどちらかというとニューヨークのはずれのスラム街みたいな感じで、貧困街だけど自然に囲まれてる系の地方都市ではない。たとえばブロードウェイがすぐそばにあっても一度も観ることができないまま死んで行く系の場所だ。
あと私は娯楽ベースの文化的なものが好きだけど、文化資本的なものだけがあると、特権が近すぎて苦しくて息ができなくなってしまう。そういうとき適度な自然を求めてるみたいだった。まぁ、適度に手入れされた自然文化も特権だけど。
そんな話を夜中までして、私の悩みごとに対して「そうなったのは悲しいけど、つかさはそんなことに負けたらダメ。つかさはつかさの幸せを見つけよう。あんまり深く考えないで。綺麗な景色を見て、美味しいものを食べて、やりたいことをして。そしたら気付いた頃にはすべてうまくいってるはず!もう何も考えずよく寝て!」と言われた。
そして「もし、今後恋人とか、本当に尊敬し合えるような人に出会ったらその人に頼ったって悪いことじゃないよ」と。
彼女は私が覚えている頃よりもとても頼もしく、大人になっていた。
そして「こんどつかさがこっちに帰ってきたら迎えに行くから琵琶湖の見えるカフェまでドライブしよう!」と言ってくれた。私は実家に帰ると憂鬱になりがちだ。でも今度帰るのが楽しみになったし、彼女とふたたび巡り会えたことに感謝した。いつかサリーと見る輝く湖水を想像しながら、その日はほんとうに久しぶりによく寝た。
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