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台風一過とワイキキキャンドル



さて、あれからだ。あれから私とかつての地元の女友達たちはインスタを通してふたたび繋がった。


パートーナーと食べたという、すばらしい霜降り肉を投稿していた彼女。インスタで繋がったその日に、私の書く文章が好きだとDMをくれた。


私はそうやってすぐに思ったことを伝えてくれる彼女をふと懐かしく思った。昔から思ったことを伝えるのが私よりずっと上手だった。毎日遊んでいたとき、少しでも関係がギクシャクすると彼女はそのことについてとことん話し合おうとした。「最近なんかお互い思ってることあるよね?」と、気まずい話し合いから逃げなかった。


そういうところがすごく羨ましいと思っていた。今だって私は上手くいっていない人間関係について話し合うなんてなかなかできない。気まずい話し合いを避けたせいでわだかまりを持ったままになってしまうことばかりだ。でも彼女はことあるごとに話し合いをして、次に進もうとする人だった。


だから一緒にいるといつも安心できて、のびのびと楽しく過ごすことができた。私は彼女くらいしか友達がいないのに、色々な人と仲良くできる彼女がときどき羨ましかったけれど、みんなの人気者だった理由はすごく理解できた。


その日私は彼女とインスタに載せてあったワイキキビーチはどうだった?という話をしたり、載せている食べ物がおいしそうだという他愛もない話をした。メッセージのやりとりをしながら彼女の少し低い声や、笑うとまぶしげになって光がこぼれるような瞳を思い出していた。それは私が長年好きなアイドルのチャームポイントでもあった。


ふとインスタを開くと、彼女は家が停電して真っ暗だということをストーリーに載せていたので、「大丈夫?」とメッセージを送った。返事はすぐにきた。ハワイで買ってきたキャンドルがたくさんあって、それを一気につけると部屋がセクシーな空間になりすぎておかしいのだという。懐かしい彼女の冗談だった。


私は自分のアパートでも荒れた風の音がすごく大きく聞こえる、と言うと「こういう時にひとりは不安よな」「すぐ助けに行けないからなぁ東京は」と言ってくれていた。


正直なところ、私はひとり暮らし3年目で、東京は地震も多いから台風をひとりでやり過ごすのはそこまで怖くはなかった。


ただ、彼女は3歳からの友達だ。ずっと近くにいたから、誰よりも私という人間を知っている。学校にうまく馴染めなかったことも、父親とのことも、すべて話してきた。


しばらくメッセージを送り合っていると「つかさはいま彼氏とかいるの?」と聞かれたので、私はいないよ、と返した。


そのときふと彼女の考えていることが伝わってきたような気がした。思い返してみると、私の幼少期はなかなかの暗黒時代だった。母子家庭で貧困家庭というだけではなく、私と祖母や母親との関係はいつも良いものとは言えなかった。


悪いことのほうが多く、家に帰りたくない子供だった。そういうとき私は多くの時間を彼女の家で過ごした。両親が揃っていて、楽しそうな彼女の家が羨ましかった。それに、彼女の家で食べさせてもらうご飯はいつも美味しかった。私の母親は料理をしない人で、いつも祖母が作ってくれたものを食べていた。お漬物がメインとかあっさりしたものが多くて、全てがぼんやりして物足りなく思えた。ハンバーグとかクリームシチューとか、そういうちょっとパンチのあるものが食卓に並ぶ彼女の家が羨ましかった。


私が口に出して羨ましがったことを、彼女は今でも覚えてるのだろう。だから、自分が当たり前のように持っているのに、私が一度も体験することのなかった「暖かい家庭」で「幸せ」になってほしいと、思っているのではないか。


彼女は彼女のやり方で私の心配をしてくれていたのだ。そして私は「暖かい家庭」から離れた場所で、勝手に彼女の心配をしていた。おそらく私たちはそれぞれの場所、それぞれの知ってる方法で、お互いの幸せを祈っていた。


それから、彼女と会えなかった間の話をするうちに、今まで見えてこなかったものが多く見えた。彼女は今専門学校の学費ローンを返しながら、将来また働くことに向けて英語を勉強したいと思っているという。


私は勘違いをしていたのではないかと思った。たとえ幸せな結婚をしても、将来への努力や不安はなくなったりしない。私は女の子が地元で結婚をすると全てが終わるような、そんなイメージにとらわれて、結婚をする子たちと自分は違うと分断をしていたのではないかと。


話をするうちに私はスカイプで彼女の英語のレッスンをすることになった。そして近いうちに遊びに来たいと言い出したので、冬の東京はイルミネーションがたくさんあったり、綺麗なものがたくさん見れるよ!と言った。彼女はじゃあ冬に行く!と言って、冬になったら東京を案内する約束をした。


いつのまにか台風は止んでいて、窓の外にはひんやりとした静かな空が広がっていた。

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