top of page

急に秋



この間まで暑くて仕方なかったのにふと気がつくと普通に肌寒い。もういつのまにか秋が来て、あと3ヶ月と少しで今年が終わるなんて信じられない。


買ったばかりだと思っていた春夏用の布団を片付け、冬用の布団をひっぱり出した。少し湿気っぽい匂いがして、今の家に引っ越してきたときのことを思い出した。


実家でのしばらく使っていないマットレスの置き場所が悪かったせいで湿気っぽく、でもお金がないから新しいものを買うわけにもいかず、そのまま寝るしかなかったんである。


おかげで関係なかった冬用の布団までそのにおいがうつってしまった。その後乾燥はさせたものの、春が来てすぐに片付けたせいで布団だけがそのにおいを保っていたことになる。マットレスのほうはアルコールをふりかけたり乾燥させているうちにいつのまにか気にならなくなった。慣れてしまったのかもしれないけれど。


ここ数ヶ月ずっと就活で頭がいっぱいであまり他のことができなかったから、文章を書くのも久しぶりでうまく書けない。書く感覚を取り戻すのにもう少し訓練が必要だと感じる。そのために今この記事を書いている。


書きたいことはたくさんあって、それが何度も頭の中でぐるぐるしているのに、手が追いつかないというか、なかなか外に出せない。こういう経験は初めてかもしれない。今まで謎の馬力で書きたいものは書きたいときに書いてきた気がするから。


今年の4月ごろ家族のトラブルに巻き込まれ、地元の議員さんを頼ったり、このブログでカンパを募ったりして月末には今の家に引っ越してきたわけだけれど、今こうして振り返ってみると、なんというスピード感...という気持ちと、なんて運がいいんだ、と思う(悪いとも言える)。


引っ越してきたばかりの頃は家の狭さや使い勝手に慣れなかったりして、こんなに苦労して引っ越して来たのに割りに合わないと泣きたくもなったし、実際引っ越してからも数日は全然気が晴れなかった。


でもそれから4ヶ月経って、今の家にも少し慣れてきた。もちろんもう少し広い、というか暮らすのに不便でない部屋に引っ越ししたい気持ちに変わりはないけれど、家賃のわりには便利な場所と条件だし、安いホテルに泊まって毎日家探しをした自分、頑張ったな...と振り返ることもある。


今でも家探しの時に泊まっていたホテルの部屋のことを、リアルに思い出すことができる。この先のことを不安に思いながら家も見つからないし、でも実家には帰りたくない。お金はない。不安な気持ちのまま毎日浴槽のお湯に浸かっていたこと。その時の少しカビ臭いシャワーカーテンとコンビニで買って来た入浴剤がまざったにおいも。


あの頃を思い出すと本当に遠くまで来た。よく考えると当時は就活どころか口約束だけでまだ正式な雇用も決まってなかったのに東京まで出てきて家探しをしてたんである。今考えると本当にクレイジーだけど、それで今ままで全部のことをここまでやり通してしまったんだから、なんて幸運だったんだろうとしか言えない。


不動産で家探しをした帰り、泊まっていたホテルの近所の繁華街でガールズバーの客引きをしている女性たちを見かけたことがあった。まだ春で夜は肌寒く、街には全く人気がなかったし、お店や彼女たちの生活がパンデミックの影響を受けているのは一目瞭然だった。


そんなとき、空っぽの道路を一台の黒い車が大きなエンジン音を出して彼女たちに近づいていった。車の中にいる男が「お姉さんたちコロナなのにお盛んだねー!」と叫んで彼女たちの前を通り過ぎていった。その声がこだまするくらい空っぽの歩道に立っていたのは私と彼女たちだけだった。


その瞬間あまりにも腹が立って沸騰するみたいに頭に血がのぼったあと、涙が出てきた。彼女たちが目の前で性的に消費され、仕事を馬鹿にされたこと、そして私もパンデミックの影響を受けていろんなことがうまくいかず、とぼとぼと力なく歩いていたところだったから。


一瞬迷ったけれど、とっさの怒りで女性たちに近寄って大丈夫か、必要なら警察を呼ぶと声をかけた。

その男の言葉を聞かなかったふりをして通り過ぎたくなかった。そのくらい冷たい夜だった。


彼女たちは大丈夫といってお礼を言ってくれたけれど、起きたことは決して許されていいことじゃなかった。


あの夜と、あの時の怒りはずっと覚えいようと決めている。







0件のコメント

最新記事

すべて表示

なんでフィクションを書こうと思い始めたか

ツイッターが好きだからです、、、って書きかけて止まった。 でも、本当にそうなのよ。。 私は子供の頃からフィクションが好きで、もちろん自分もそれを生み出せる人になりたいなと思ってはいたけど、いまいちどこから始めたら良いのか分からず、そしてなんやかんやでライターの仕事をぽつぽつ...

Comments


bottom of page